円形脱毛症

円形脱毛症とは

円形脱毛症の主な病態は成長期毛包組織に対する自己免疫反応と考えられています。通常は自己のリンパ球は毛包を攻撃しないようになっていますが(免疫寛容)、なんらかの理由でその仕組みが崩れると、細胞傷害性Tリンパ球による毛包の攻撃が始まります。遺伝的な背景に加え、ウイルス感染症、身体的・精神的疲労などが引き金になると考えられています。円形脱毛症は自己免疫疾患であり、他の自己免疫疾患を合併していることもあります。治療法は症状に応じて行う対症療法が中心であり、完治させるのが難しいことも多いですが、徐々に改善されて自然治癒する場合があります。積極的な治療をせず経過観察する方法もあります。

円形脱毛症の分類と治療

円形脱毛症の分類として①単発型、②多発型、③蛇行型、④全頭型、⑤汎発型にわけられます(図1)。一般的に後者になるほど脱毛面積が大きくなり、重症型とみなされます。円形脱毛症の半数以上は単発型または多発型であり、積極的な治療をしなくても自然軽快する傾向にあります。通常は経過観察または外用療法のみで問題ありませんが、プラスアルファとして紫外線療法(光線療法)を組合わせれば十分です。慢性化した難治例では局所免疫療法などを行う場合もあります。脱毛範囲が50%を超える重症の場合には経口JAK阻害薬と呼ばれるオルミエントやリットフーロの適応になります。

参考までに当院で紫外線療法を行った症例写真を提示します(図2)。週1回程度の通院でエキシプレックスを行った結果です。従来のエキシマライトよりも高い効果が期待できます。発毛がみられたらミノキシジル外用液を併用すると良いでしょう。円形脱毛症そのものに効果があるわけではありませんが、回復期の軟毛を太くする効果があります(保険適応外)。費用は当院ホームページのAGAまたはFAGAの項目でご確認ください。

図2
80歳代女性の臨床経過(全頭型)

  • 治療開始前

  • 5カ月後

※ご本人の許可を得て写真を掲載

※当院では副作用に注意しながら高めの線量で照射しています。

※紹介した症例は臨床症例の1例を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

円形脱毛症の予後と治療方針

円形脱毛症患者の40%が単発型で6ヵ月以内に自然治癒し、27%が多発型で12カ月以内に自然治癒すると報告されています(文献1)。言い換えると全体の2/3は1年以内に自然治癒することを意味します。しかし残りの1/3は慢性化し、全身療法が行われていない慢性円形脱毛症のうち30%が全頭型に、15%が汎発型に移行すると報告されています(文献1)。また、円形脱毛症患者191名に対する7年間の追跡調査によれば、脱毛面積25%未満では68%が回復したが、50%未満では回復率32%、さらに広範囲になると回復率はわずか8%であったと報告されています(文献2)。また、円形脱毛症はアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、その他の自己免疫性疾患と関連性があることが報告されており、合併症の有無が予後不良因子になりうると考えられています(文献3)。

以上より円形脱毛症が1年以上続く場合や、若年発症、脱毛面積が大きい場合、アトピー性皮膚炎をはじめとする自己免疫性疾患を合併している場合には積極的な治療が望まれます。しかし、慢性化した全頭型/汎発型の治療はきわめて難しく、無治療で経過観察する場合もあります。そのような症例でも部分的に発毛がみられることもあり、そこで治療を再開することでさらに回復する可能性もあると考えられます。また近年、経口JAK阻害薬であるオルミエントやリットフーロという新薬も出てきており、難治例に対してもあきらめない治療が可能な時代となりました。

(文献1)Cranwell WC et al. Treatment of alopecia areata: An Australian expert consensus statement. Australas J Dermatol. 2019;60:163-170.

(文献2)Tosti A et al. Alopecia areata: a long term follow-up study of 191 patients. J Am Acad Dermatol. 2006;55:438-41.

(文献3)Chu SY et al. Comorbidity profiles among patients with alopecia areata: the importance of onset age, a nationwide population-based study. J Am Acad Dermatol. 2011;65:949-56.

円形脱毛症に効かない薬

結論から言うとグリチロン、セファランチンは効きません。これらは円形脱毛症に保険適応のある薬剤ですが、ランダム化比較試験による有効性は確認されておらず、日本独自のもので世界標準治療薬ではありません。当院では処方しておらず、お勧めもしていません。保険適応があるのに効かない薬などあるのかと驚かれるかもしれませんが、古い薬ではしばしばあり得ることです。また医学の知識は常にアップデートされるため、かつて有効と考えられてきた治療法であっても、後年の研究で否定されることは珍しいことではありません。

ここ20年以内の新しい薬はRandomized Clinical Trialと呼ばれる臨床試験で有効性が証明されたものだけが治療薬として認可されています。問題は古い薬です。グリチロン、セファランチンはいずれも1940年代からある薬であり、円形脱毛症に対する有効性は証明されていません。証明されているのはオルミエントとリットフーロだけです。新薬が発売されるには日本国内で臨床試験を行わなければならず、欧米に比べて新薬承認が遅れてしまうことが度々ありました(ドラッグ・ラグ)。しかし最近では、大型の新薬は世界同時に国際共同臨床試験が行われ、日本でも欧米と同時期に新薬を使用できることも多くなりました。それに該当するのがオルミエントとリットフーロです。円形脱毛症の治療は時間がかかるうえに自然軽快することも多いため、治療の有効性を評価するのは非常に難しく、プラセボとの二重盲検比較試験を行わなければなりません。有効性を謳っている治療法であっても、エビデンスレベルは高くない(医学的根拠に乏しい)とみなされる理由は、たまたま自然軽快した可能性が否定できないからです。その他、ビタミン剤や漢方薬、市販の育毛剤などは上記の理由で全く効果がないものと考えてください。難治性の円形脱毛症で長年お悩みの方は、まずは医学的根拠のない治療を止めることがファーストステップになると考えます。

Key Points

①グリチロン、セファランチン、漢方薬、ビタミン剤、育毛剤等は無効と考えてよい
②大規模臨床試験で有効性が証明されているのはオルミエントとリットフーロの2つだけである