掌蹠膿疱症

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)について

掌蹠膿疱症とは?

掌蹠膿疱症は手掌と足底に水疱・膿疱が繰り返し出現する皮膚疾患です。喫煙歴のある女性に多いのが特徴です。女性では過去の喫煙量(喫煙本数×喫煙年数)が皮膚の重症度と強く相関することが報告されています(文献1)。つまり、喫煙量が多ければ多いほど重症度が高くなる傾向があるということです。

治療の土台になるのは外用療法ですが、病巣感染治療が重要と考えられています。具体的には扁桃炎や歯周炎などに対する治療です。掌蹠膿疱症の病巣感染は通常の感染症ではなく、常在菌に対する過剰な免疫反応と考えられています。通常なら共存できるはずの常在菌に対し、それを排除しようとして炎症反応が過剰に起きている状態です。常在菌をなくすことはできないため、病巣の除去を行います。歯科口腔外科で歯根部や歯周炎などの治療を行ったり、扁桃炎に対して扁桃摘出を行います(耳鼻咽喉科で1週間程度の入院期間を要します)。掌蹠膿疱症に対して扁桃摘出を行った138名のデータによれば、約80%の患者で掌蹠膿疱症が治癒または著明改善したと報告されています(文献2)。

病巣治療の目標は、炎症の原因となっている細菌群がなくなるか、通常の常在菌叢になることで炎症反応が消失してゆくことです。ただし治療効果は個人差が大きいこと、また皮膚や関節の症状が改善するのに数カ月~2年程度かかります。

当院ではまずは外用治療をベースとして、局所の光線治療(紫外線療法)を行ったり、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科と連携を取りながら病巣感染治療も進めていきます。病巣治療を行っても改善がみられないようであれば治療方針を再検討することになります。

(文献1)Kobayashi K et al. Cigarette smoke underlies the pathogenesis of palmoplantar pustulosis via an IL-17A-induced production of IL-36γ in tonsillar epithelial cells. J Invest Dermatol 2021;141:1533–41.e4.

(文献2)Takahara M et al. Treatment outcome and prognostic factors of tonsillectomy for palmoplantar pustulosis and pustulotic arthro-osteitis: A retrospective subjective and objective quantitative analysis of 138 patients. J Dermatol. 2018;45:812-823.

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掌蹠膿疱症は乾癬の類縁疾患と考えられていますが、最大の違いは病巣感染との関連性が指摘されていることです。掌蹠膿疱症には診療ガイドラインが存在せず、統一された治療が行われてきませんでした。しかし、日本皮膚科学会雑誌から「掌蹠膿疱症診療の手引き2022」が公表されました。手引きでは推奨度Aの治療法はなく、推奨度B(行うよう勧められる)の治療法として、禁煙、病巣感染治療、外用治療などが挙げられています。古くから行われてきたビオチン内服療法は推奨度C1となっています(行うことを考慮してもよいが十分な根拠がない)。総説論文でも有効性はあきらかではないと記載されています(文献3)。また、ビオチン療法には保険適応がありません。また近年、金属アレルギーとの関連性は低いことがわかってきており(文献4)、歯科金属除去は推奨度C1となっています。当院では金属パッチテストは積極的には行っておりません。

掌蹠膿疱症の治療方法

掌蹠膿疱症の治療法をまとめてピラミッド状に図示しました。土台となるのが外用療法です。外用療法に加え、局所の光線療法(紫外線療法)を行うこともあります。当院ではエキシプレックス308を導入しており、手足の病変部に紫外線を照射します。週に1回程度照射することで病変部の炎症を抑えることが期待できます。同時に禁煙や病巣感染治療が重要です。これらは初期段階から取り組むことが望ましく、土台部分から連続する形で示しています。病巣感染治療とは具体的には虫歯を含む歯性病巣治療や扁桃摘出のことを指します。なぜそれが有効なのか詳細なメカニズムはあまりよくわかっていません。病巣感染治療を行う場合には、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科との連携が必要になります。しかし、病巣感染治療をしても、なかなか改善しないケースも珍しくはありません。

既存の治療で効果不十分の掌蹠膿疱症に対して2018年にトレムフィア、2023年5月にスキリージ、2023年8月にルミセフが追加承認されました。いずれも乾癬に適応のある生物学的製剤(バイオ製剤)です。現在、掌蹠膿疱症に保険適応を有する生物学的製剤はこれら3剤でピラミッドの頂点に位置します。3剤とも乾癬では非常に高い効果が得られる注射製剤ですが、臨床試験のデータを見る限り、掌蹠膿疱症では乾癬ほどの高い治療効果は得られないようです(文献5)。また、乾癬治療の項目でも述べたように非常に高額な薬剤ですので治療費の負担が問題になることが多いです。

(文献3)Yamamoto T. Clinical Characteristics of Japanese Patients with Palmoplantar Pustulosis. Clin Drug Investig. 2019;39:241-252.
(文献4)Masui Y et al. Dental metal allergy is not the main cause of palmoplantar pustulosis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019;33:e180-e181.
(文献5)Okubo Y et al. Sustained efficacy and safety of guselkumab in patients with palmoplantar pustulosis through 1.5 years in a randomized phase 3 study. J Dermatol. 2021;48:1838-1853

歯性病巣治療の重要性

掌蹠膿疱症の原因の1つとして病巣感染があげられています。これが無治療のままだと根治的な治癒が期待できません。掌蹠膿疱症は治療選択肢が限られているため、発症の契機や悪化因子を取り除くことが大切です。多くの症例で喫煙や病巣感染(歯周病や扁桃炎)が過剰な免疫反応を引き起こしていると考えられています。これらは掌蹠膿疱症を発症する以前からあったものと想定されますが、精神的ストレスや急性扁桃炎などのイベントが発症の引き金になっていると考えられます。

病巣感染治療と言われてもピンとこないと思いますが、具体的には歯科治療や扁桃摘出です。当院ではまずは歯科治療をおすすめしています。自分は虫歯がないから大丈夫だと思われるかもしれませんが、ここでいう歯科治療(歯性病巣治療)とは単に虫歯の治療だけを指しているのではありません。歯性病巣には①歯の根元に菌塊が形成される根尖病巣(根尖性歯周炎)②歯槽骨の融解を伴う中等症以上の歯周炎(辺縁性歯周炎、いわゆる歯槽膿漏)③智歯周囲炎の3種類があります。これらの歯性病巣は必ずしも腫れや痛みなどの自覚症状があるわけではないため、医療機関を受診することはないかもしれません。特に根尖病巣は神経を抜いた歯に生じやすいため、無症状で経過することもあります。こうした無症状の歯性病巣が免疫反応を誘導し、掌蹠膿疱症の原因の1つになると考えられています。歯性病巣治療の有効性については日本人のデータで70名中44名すなわち63%の患者で改善を認めたと報告されています(文献1)。また2022年の掌蹠膿疱症診療の手引きにも推奨度B(行うよう勧められる)となっており、その重要性について記載されています。当院では主に近隣の恵佑会札幌病院歯科口腔外科にご紹介させていただいており、実際に掌蹠膿疱症が完全治癒した症例も経験しています。

(文献1)Kouno M et al. Retrospective analysis of the clinical response of palmoplantar pustulosis after dental infection control and dental metal removal. J Dermatol. 2017;44:695-698.

Key Points

①掌蹠膿疱症に対する歯性病巣治療の有効性が報告されている
②歯性病巣治療とは単に虫歯の治療だけを意味するのではなく、根尖病巣や歯周病などの治療も行う必要がある

ルミセフへの期待

掌蹠膿疱症は喫煙歴のある女性に多いことから、長年の喫煙習慣が関与していることは間違いありません。院長は大学病院で喫煙と掌蹠膿疱症の研究を行ってきました。ヒト扁桃上皮細胞を用いた研究で、喫煙によってインターロイキン17(IL-17)を介してインターロイキン8(IL-8)やインターロイキン36(IL-36)が強く誘導されることを世界で初めて発見しました(文献1)。手足にできる膿疱(黄色いぶつぶつ)は好中球が集まってできるものです。IL-8やIL-36が病態の中心となっている可能性が高く、それを抑えるブロダルマブ(ルミセフ)は最も理にかなった薬剤であると考えられます。実際に院長は大学病院でルミセフの治験を担当していましたが、かなりの効果があったことを鮮明に覚えています。ルミセフは2023年8月に掌蹠膿疱症に対して追加承認され、当院でも早速9月から使ってみましたがわずか1カ月で驚くほどの効果がありました。
症例は70歳代の男性です。写真は順に(a)治療前の最も悪い状態と(b)やや落ち着いている状態を繰り返していましたが、(c)ルミセフ投与後1カ月で著明に改善しました。膿疱が繰り返し多発するタイプだったため、ルミセフが著効したのではないかと考えています。あくまでも著効例と考えておいた方が良いでしょう。膿疱が少ないタイプではあまり効果が得られないかもしれません。トレムフィア、スキリージも掌蹠膿疱症に使われる生物学的製剤ですが、ルミセフとは作用機序が異なる薬剤です。どの薬剤がベストなのか今後の使用経験の蓄積が必要でしょう。

  • (a)治療前の最も悪い状態

  • (b)やや落ち着いている状態

  • (c)ルミセフ投与後1カ月

※ご本人の許可を得て写真を掲載
※紹介した症例は臨床症例の1例を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
※ルミセフは2週間毎の投与が必要で在宅自己注射が可能です。主な副作用は真菌感染症などです。3割負担で1本約22000円の高額な薬剤ですが、高額療養費制度を利用することで自己負担額を少なくすることが可能です。詳細は受診時に問合せください。

(文献1)Kobayashi K et al. Cigarette smoke underlies the pathogenesis of palmoplantar pustulosis via an IL-17A-induced production of IL-36γ in tonsillar epithelial cells. J Invest Dermatol 2021;141:1533–41.e4.

Key Points

①喫煙を介して誘導されるIL-8やIL-36が掌蹠膿疱症の病態に関与している
②ルミセフはIL-8やIL-36を抑えることで優れた効果を発揮する