
皮膚科診療のトリビア
その1 標準治療とは何か?
「標準治療」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?皮膚科以外でも使われる用語です。標準という言葉には「並みの」というニュアンスがあるため、もっと他に優れた治療法があるのではないかと考えることがあるかもしれません。実際にはそうでないことの方が多く、「標準治療」とは過去の臨床医学の積み重ねの結果生み出されたものであり、最も信頼に足る治療法と言えるのです。専門家が世界中の研究成果を集め、有効性や安全性を吟味し、その時点で最善の治療法として合意したものが「標準治療」と呼ばれます。並みの治療/平凡な治療という意味ではありません(注「一般的に広く行われる治療」を意味することもあります)。しかし、医療には不確定要素が多く、すべての患者さんに「標準治療」を行っても良い結果が得られないこともあります。また、すべての皮膚疾患に「標準治療」があるわけではなく、治療法が確立されていないものも多くあります。むしろ後者の方が圧倒的に多いです。
アトピー性皮膚炎やニキビなどは診療ガイドラインに基づく「標準治療」が存在します。皮膚科に限らず、一般に「標準治療」が確立されている疾患で医療機関を受診する場合、専門医の意見に従った方が良いと考えられます。患者さん自ら「標準治療」を拒否したり、自己判断したりするのは結果的に不利益を被る可能性の方が高くなります。場合によっては取り返しがつかなくなることもあり得ます。しかし「標準治療」は絶対的なものではなく、上手くいかないこともあります。その場合、その分野のエキスパートに紹介したり、やむを得ず標準から外れた治療を行うこともあるわけです。
また、医学は常に進歩していますから現在の常識が将来的に覆ることもありますし「標準治療」も少しずつ修正されていくものです。しかし、現在の「標準治療」から外れた治療を行う場合、それなりの理由が必要です。医療機関で専門医から「その治療はお勧めできない」と説明された場合、理由の1つとして「標準治療」から外れている可能性が考えられます。根拠のない治療/有効性や安全性が確立されていない治療を行うことになりかねないからです。
Key Points
①「標準治療」とは過去の臨床医学の積み重ねの結果生み出された最良の治療法である。
②「標準治療」を行わない場合には理由が必要である。
その2 ニキビの標準治療
ニキビの正式名称は「尋常性ざ瘡」といいますが、医療機関の受診率は16%と極めて低いことが報告されています。ニキビ治療は皮膚科を受診することから始まります。自己流のケアや市販薬では効果が期待できないからです。ニキビは思春期に多く発症し、「過剰な皮脂」「毛穴のつまり(面皰(めんぽう)と呼ばれます)」「アクネ菌の増殖による炎症」で悪化します。かつてはビタミン剤や漢方、抗菌薬中心の治療が行われていましたが時代は変わりました。
2008年にアダパレン(ディフェリン)、2015年にベピオが使用できるようになりました。より強力な配合薬としてデュアック、エピデュオも使われるようになりました。これらの薬剤は面皰を改善するもので、ニキビを早期かつ根本から治すものです。刺激感が一番の問題になりますが、最初は短時間(15分間のみ)で開始することをすすめています。ショートコンタクトセラピーと呼ばれる方法ですが、外用後15分経ったら洗顔して洗い流します。たった15分でも効果は得られます。徐々に時間を延ばして慣らしていきましょう。特に敏感肌の女性は刺激感が強く表れる傾向にあるようです。最初の2週間は強い刺激があっても、次第に落ち着いてくることが多いです。
抗菌薬、特にクリンダマイシンゲルを希望される患者さんが多いですが、単独使用はおすすめできません。薬剤耐性菌が増加傾向にあるうえ(文献1)、海外のガイドラインでも抗菌薬の単独使用は明確に否定されています(文献2)。また抗菌薬には面皰を改善させる効果は全くありません。
ニキビ治療は受診期間を空けすぎないで定期通院することが重要であり、この点に関してはアトピー性皮膚炎と同じです。通院が途切れがちになり、治せるはずのニキビを治せないケースが多いのも事実です。
Key Points
①ニキビ治療は医療機関を受診することが治療の第一歩になる
②炎症期には抗菌薬は有用だが、面皰の治療も同時に行わなければならない
③アトピー性皮膚炎と同様にニキビ治療も定期通院が必要である
(文献1)Aoki S et al. Increased prevalence of doxycycline low-susceptible Cutibacterium acnes isolated from acne patients in Japan caused by antimicrobial use and diversification of tetracycline resistance factors. J Dermatol. 2021;48:1365-1371.
(文献2)Zaenglein AL et al. Guidelines of care for the management of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2016;74:945-73.e33.
その3 紫外線療法の有用性
近年、アトピー性皮膚炎や乾癬の治療は飛躍的に進歩しました。しかし、治療の基本は今も昔も外用療法です。通常の外用では効果不十分、かといって高額な治療を行うのも難しい…そのような壁があるのも事実です。
そこでおススメなのが紫外線治療です。太陽光に含まれる紫外線のうち、治療効果のある特定の狭い範囲の紫外線だけを全身に照射します(narrow band UVB療法)。炎症細胞の働きを抑えることで重症アトピー性皮膚炎や乾癬などに対して優れた効果を発揮します。有害な波長を取り除いた紫外線なので安全性も高い治療です。ただし治療ができる施設は限られています。当院ではダブリン3シリーズ NeoLux(キャンデラ社製)を導入しております(写真参照)。電話ボックスに入って全身に紫外線を当てるようなイメージです。機械の内側にはランプが計48本搭載されており、照射時間は30秒~2分程度と短時間で終了します。状態にもよりますが、まずは週1~2回程度から開始し、症状が落ち着いてきたら徐々に期間を空けて治療を継続します。費用は3割負担で1回1020円なので高価な薬剤に比べれば安価です。
紫外線は通常の外用療法の次のステップになりうる治療法です。これで改善できれば、外用量が減って外用の手間と薬剤費がセーブできるので選択肢として悪くはありません。学会等では高価な薬ばかりが華やかですが、従来の治療を組合わせることで十分改善できることも多いです。当院では外用療法の工夫、紫外線療法、治験への参加など、なるべく費用がかからない治療法を提案することも可能です。まずは漫然とした治療からの脱却が必要です。

Key Points
①紫外線療法は中等度~重度のアトピー性皮膚炎・乾癬治療の有力な選択肢である
②紫外線療法は費用対効果に優れた治療法である