
自由診療(重症ニキビ治療)
重症ニキビ治療薬 イソトレチノイン
イソトレチノインは炎症をともなう重症ニキビに対して非常に高い効果があります。スイスの製薬会社ロシュが開発したもので、海外では古くから重症ニキビ治療薬の第一選択として使われています。イソトレチノインの商品名としてアキュテイン、ロアキュタン、ロアキュテイン、アクネトレントなど複数あります。
皮脂腺の分泌を抑制し、皮脂腺そのものを小さくさせる効果があります。治療効果の高さだけでなく、再発しにくく長期寛解が期待できるという特徴も兼ね備えています。顔面のみならず、背中や胸のニキビに対しても優れた効果を発揮します。医療に絶対などということはありませんが、難治性の重症ニキビに対してほぼ確実に効果があると言われています。しかし、日本では保険適応がないため自由診療になります。費用はかかりますが、それだけの価値は十分にあります。
重症ニキビが長引くとニキビ瘢痕が形成されることがあり、かつニキビ瘢痕の治療は非常に難しいことが知られています。ニキビ瘢痕の治療は近年、自由診療のフラクショナルレーザーという分野で急激に進歩しているようですが、費用も時間もかかります。予防に勝る治療法はありません。
治療の流れ
ホームページの記載を熟読の上、来院時に「イソトレチノイン内服希望」とお伝えください。
未成年の場合は必ず法定代理人(親権者)の同意が必要ですので、受診当日の法定代理人の同伴が必須となります(初回のみ)。
まずは適応があるかどうか判断します。保険診療で十分効果が得られそうなら無理に始める必要はないと思いますが、中等度であっても始める価値は十分にあります。
1日の投与量は0.5mg/kgです。例えば体重50kgであれば1日の投与量は25mgとなります。食中または食後に内服してください。空腹時に内服してはいけません。治療期間は6ヵ月間(24週間)が目安です。服用開始してから最初の1ヵ月で一時的に症状が悪化する場合がありますが(全体の3割程度)、自然に改善するのを待ちましょう。次第に落ち着きます。投与前に血液検査を行います。健康診断など直近の採血データを持参いただければ代用できます。初回は30日分処方します。次回以降は60日分の処方が可能です。再発または効果不十分の場合には最低8週間以上の間隔を空け2回目の治療を行います。
イソトレチノインの治療費
- 10mg 30日分
- 16,500円(税込)
- 20mg 30日分
- 22,000円(税込)
これ以外にかかる費用として
初診料 3,300円(税込)、再診料 1,100円(税込)、血液検査 3,300円(税込)
※クレジットカード払いには対応しておりません。
イソトレチノインを服用ができない方
- ● 妊娠中の方(胎児に異常が出る可能性が報告されています)
※男女ともに内服中および内服終了後1ヵ月間の避妊が必要です。また内服中および内服終了後1ヵ月は献血できません。 - ● 現在授乳中の方
- ● 成長期の方(15歳以下)※12歳以上でも可能だが要相談
- ● テトラサイクリン(抗生物質)で治療を受けている場合
- ● ピーナッツや大豆にアレルギーがある方
- ● 精神疾患や心疾患の方
- ● 肝機能障害のある方
- ● 中性脂肪、コレステロールの高い方(脂質異常がある方)
- ● ビタミンA過剰症の方
イソトレチノインの主な副作用と対応方法
妊娠中の女性は使用できません。胎児に深刻な害を及ぼす可能性があるからです。
その他、皮膚や粘膜の乾燥症状(特に唇の乾燥)の頻度が高いことが知られています。
保湿剤やワセリン、点眼液などで対応可能です。あらかじめドラッグストアで購入しておきましょう。
重症ニキビと難治性ニキビは異なる
ほぼ同じだと思われがちですが、よく考えてみると両者は異なることに気がつきます。重症ニキビに対してベピオゲルやデュアックゲルなどの標準治療を適切に行えば、それなりの効果が得られ、やがて軽度~中等度の症状に落ち着きます。しかし、そこからなかなか良くならず治療が長期におよぶ場合があります。つまり症状は軽度~中等度であるが、難治性のニキビというわけです。そのようなケースではやはりイソトレチノイン内服が推奨されます。重症でなければ適応外などという保険診療にありがちな処方制限がないのが自由診療のメリットです。
中等度のニキビ患者638名にイソトレチノインを1日20mg(低用量)投与したところ、12~20歳の患者で94.8%、21~35歳の患者で92.6%が良好な結果が得られたと報告されています(文献1)。重症ニキビはもちろん、中等度ニキビにも優れた効果を発揮します。中等度ニキビに対するイソトレチノイン低用量での内服治療は、患者満足度が高く、かつ副作用の少ない最適な治療法であると報告されています(文献2)。ただし低用量だと再発率が高くなるという意見もあるため注意深い経過観察が必要です。
難治性のニキビは単に皮膚だけの問題ではなく、ホルモンバランスや皮脂腺などをはじめとする体の内側の問題が大きいです。外用薬やピーリング、レーザー治療など外側からのアプローチだけではニキビの再発を抑えるのが難しいこともあります。米国ガイドラインでも中等度以上のニキビには内服治療が推奨されています。イソトレチノインは皮脂腺のアポトーシス(細胞死)を誘導させることが報告されており(文献3)、再発率が低くなる理由の1つと考えられます。したがって軽度~中等度であるが再発を繰り返す難治性ニキビに対して非常に有効性の高い治療と言えるでしょう。
Key Points
①中等度ニキビに対してもイソトレチノインは有用である
②中等度ニキビではイソトレチノインは低用量でも十分な効果が期待できる
(文献1)Amichai B et al. Low-dose isotretinoin in the treatment of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2006;54:644-6.
(文献2)Lee JW et al. Effectiveness of conventional, low-dose and intermittent oral isotretinoin in the treatment of acne: a randomized, controlled comparative study. Br J Dermatol. 2011;164:1369-75.
(文献3)Nelson AM et al. 13-cis Retinoic acid induces apoptosis and cell cycle arrest in human SEB-1 sebocytes. J Invest Dermatol. 2006;126:2178-89.
ニキビの再発率を考える
ニキビの再発は非常に悩ましい問題です。初期段階である微小面皰を治療することで再発を抑えることができます。それが可能な薬剤は過酸化ベンゾイルとアダパレンの2つのみです。商品名ではベピオ、ディフェリン、デュアック、エピデュオです。これらの外用薬は診療ガイドラインでも取り上げられているニキビの標準治療薬ですが、外用をやめてしまえば必ず再発してしまいます。したがって年単位の治療を継続する必要があります。
一方でイソトレチノインは皮脂腺を退縮させる作用があるため、再発を抑えることができ、かつ再発しても症状は軽度で済みます。ただし、再発率は文献によってかなりのばらつきがあるためあまり参考になりません(そもそも再発をどのように定義すべきかという問題があります。定義が変われば再発率も変わります)。再発率はイソトレチノインの投与量、投与期間、併用薬の有無、重症度、年齢、性別など様々な要素が関与するため一概には言えませんが、おおむね30%程度と考えておけば良いでしょう。Quéreuxらは再発率が高くなる患者背景として、年齢が若いこと、家族歴があること、胸や背中にもニキビがあることを挙げています(文献1)。これらに該当する場合には投与量を多くすることが望まれます。なお、最新のメタアナリシスによれば再発率を下げるにはイソトレチノインは低用量ではなく、通常量が推奨されるとしています。(文献2)。
海外では中等度~重度のニキビに対するイソトレチノインは第一選択として位置づけられおり、世界のスタンダードなのです。すでにお気づきのように日本のニキビ治療は海外に比べて大きく遅れています。当院でイソトレチノインを希望される患者さんの重症度はそれほど高くはない印象です。むしろ中等度で再発率の低い治療を希望される方が多いようです。難治性ニキビはもちろん、治療満足度が低い場合にも有力な選択肢です。当院ではマニュアル通りに処方するのではなく、イソトレチノインの最適な内服量や使用法を提示します。最大限の効果をあげ、再発率を可能な限り下げることを目指します。
Key Points
①従来の保険治療におけるニキビの再発率はほぼ100%である
②イソトレチノイン内服治療は再発率が低く、再発しても症状は軽度で済む
③ イソトレチノインは難治性ニキビの世界標準治療薬である
(文献1)Quéreux G et al. Prospective study of risk factors of relapse after treatment of acne with oral isotretinoin. Dermatology. 2006;212:168-76.
(文献2)Al Muqarrab F, Almohssen A. Low-dose oral isotretinoin for the treatment of adult patients with mild-to-moderate acne vulgaris: Systematic review and meta-analysis. Dermatol Ther. 2022;35:e15311.
イソトレチノインの効果的な投与方法
重症ニキビに対する最高の治療法はイソトレチノイン内服です。自由診療で費用がかかるため、最大限の効果を得るための作戦を立てることは重要です。
各国のガイドラインごとに推奨される量に差がありますが、体重に応じて投与量は変わります。例えば欧州ガイドラインでは投与量0.3~0.5mg/kg/day(最重症型では0.5mg/kg/day以上)を推奨しています。一方で米国ガイドラインでは最初の1カ月間は0.5mg/kg/day以下で開始し、その後は最大1mg/kg/dayまで増量することを推奨しています(体重60kgの場合、0.5mg/kg/dayで計算すると投与量は1日30mgになります)。治療期間については欧州ガイドラインでは最低6ヵ月間、Gollnickらは16~24週間以上を推奨しています(文献1)。明確な治療期間を設定するのではなく、ニキビ完全消失後からプラス1ヵ月間の投与が最も合理的とする意見もあります(文献2)。以上より治療期間は状況次第と考えてよいと思われますが、添付文書には6ヵ月間と記載されています。また内服開始後の一時的な増悪(フレア)予防のため、初期開始量を0.2mg/kg/day以下に抑えることを推奨する意見もあります(文献3)。
トータルの投与量について米国ガイドラインでは120~150mg/kgを推奨しています。この量になると十分な効果が得られるというのがその根拠です。前述のように体重60kgで1日30mg内服するならば120mg/kgを達成するには240日(8ヵ月)かかるという計算になります。一方で欧州ガイドラインでは累積投与量に関しては根拠がないとしています。他国のガイドラインに比べ米国ガイドラインではより高用量を推奨している印象です。また欧米人に比べ、日本人では投与量は少なくても良いとする意見もあるようですが、明確な根拠はありません。各国のガイドラインにややばらつきがあるのは重症ニキビの分類基準が異なることが1つの要因と考えられます。
最後に投与のタイミングです。空腹時に内服すると吸収率が落ちるため、必ず食後に内服することです。内服2~4時間後に血中濃度が最大となり、ミルク・バター・チーズなど脂質を含む食事を取ることで吸収率が1.5~2倍に高まることが報告されています(文献4)。また内服方法は1日1回が良いのか2回にわけて内服するのが良いのか海外のどのガイドラインでも結論が出ていません。
Key Points
①初期投与量0.5mg/kg/day以下で開始し、状況に応じて増量を検討する
②脂質を含む食事のあとに内服することで吸収率を高めることができる
(文献1)Gollnick HP et al. A consensus-based practical and daily guide for the treatment of acne patients. J Eur Acad Dermatol Venereol 2016;30:1480-1490.
(文献2)Thiboutot DM et al. Practical management of acne for clinicians: an international consensus from the Global Alliance to Improve Outcomes in Acne. J Am Acad Dermatol 2018;78(2 Suppl 1):S1-S23.e21.
(文献3)Borghi A et al. Acute acne flare following isotretinoin administration: potential protective role of low starting dose. Dermatology. 2009;218:178-80.
(文献4)Colburn WA et al. Food increases the bioavailability of isotretinoin. J Clin Pharmacol. 1983;23:534-9.
イソトレチノインの副作用
ニキビ治療の選択肢は以前に比べて格段に増えましたが、通常の治療で全く歯が立たない場合もあります。欧米では古くからロアキュテイン(イソトレチノイン)が難治性の重症ニキビに対して第一選択として使われてきました。
イソトレチノインが初めて認可された1983年当時は副作用のチェックのために定期的な血液検査が推奨されていました。欧州ガイドラインでは治療前、1ヵ月後、3ヵ月後の採血、米国ガイドラインでも脂質異常と肝機能障害のチェックが推奨されています。しかし、副作用の頻度は実際には低いことがあきらかとなってきており、毎月の血液検査までは不要であると報告されました(文献1)。さらに2022年、アメリカとイギリスの研究チームは125本の研究論文をレビューした結果、報告された有害事象は非常にまれであり、健康な若年者ではイソトレチノイン経口投与時の臨床検査モニタリングは不要であると結論づけました(文献2)。副作用チェック目的の採血が有益であることを支持するエビデンスはないとしています。ただし、論文の最後に「この考え方は修正が必要になる可能性はある」と述べています。
イソトレチノインの添付文書を見ると数多くの副作用の可能性があげられています。その中で最も注意すべきことは、流産のリスク上昇や胎児への催奇形性があることです。献血ができないのも妊婦に輸血されるリスクがあるためです。添付文書には内服中および内服後1ヵ月間避妊することと記載されていますが、実際には安全性のマージンを取って内服後6ヵ月間空けるよう推奨している施設が多いようです。その他、頻度が高い副作用としては皮膚や口唇および目・口・粘膜の乾燥です。ほぼ100%近く現れますが比較的軽度ですので保湿剤や点眼液などで対応できることがほとんどです。
Key Points
①イソトレチノイン治療では頻回の採血検査の必要性は否定されている
②特に注意すべきなのは「男女とも避妊が必須」「献血は不可」以上2点である
(文献1)Lee YH et al. Laboratory Monitoring During Isotretinoin Therapy for Acne: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Dermatol. 2016;152:35-44.
(文献2)Affleck A et al. Is routine laboratory testing in healthy young patients taking isotretinoin necessary: a critically appraised topic. Br J Dermatol. 2022;187:857-865.