アトピー性皮膚炎には「標準治療」が存在します。ドクターショッピングはあまり良いことではありませんが、主治医との相性が大切です。当院の方針が合わないと感じたら医療機関を変えることも必要だと思います。ステロイド外用薬を使わない治療は、診療ガイドライン(標準治療)から大きく逸脱するものであり、当院では行っておりません。
当院では初診のあとは必ず1週間後に来院いただき、その後は症状に応じて定期通院をお願いしています。重要なことは「ステロイド外用薬の適正使用」と「定期受診」この2点に尽きます。残念ながら実際の診療では1人1人に十分な時間をかけられないこともあります。しかし、それをカバーするため、看護師が適切な外用指導ができるよう定期的に勉強会を行っております。
アトピー性皮膚炎Q&A
Q. アトピー性皮膚炎は治すのが難しいのでしょうか?
A. いいえ。適切な治療をすればコントロールが容易な疾患です。
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適切な治療とは十分な強さのステロイド外用薬で炎症を完全に消失させることです。ステロイド外用薬を使っても効果不十分、あるいは再燃を繰り返す患者さんには共通のパターンがあります。
①炎症を抑えることのできない弱いステロイドを使っている(または外用量が不十分)
②炎症が完全に消失する前に外用をやめてしまう
③定期通院を自己判断で止めてしまう
この3点のいずれかに当てはまることが多いです。特に外用中止のタイミングを間違えるケースが多く、外用指導を何度も繰り返し受ける必要があります。
Q. 初診から1週間後の再診は必須ですか?
A. 1週間後に再診することで結果が大きく変わります。
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アトピー性皮膚炎で初めて当院を受診された患者さんには、必ず1週間後の再診をお願いしています(すでに寛解状態の場合を除く)。その理由は 1週間後に臨床評価・治療評価・副作用の有無・外用薬の使用状況などをチェックするためです。これらのチェック項目に基づいて、治療方針の軌道修正を行うと同時に今後の見通しをつけ、次回までの課題を出します。こうした小さな積み重ねが、きわめて大きな差を生みます。おおよその通院の目安は次のようになります。
Q. アトピー性皮膚炎の治療で最も大切なことは何でしょうか?
A. 良い状態か否か診てもらうために定期受診することだと思います。
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最も大切なことは悪い状態で受診するのではなく、良い状態かどうか診てもらうために定期受診することです。
例えば、ピアノ教室に通う人は自宅で十分に個人練習をしてからレッスンを受けるはずです。個人練習の出来を先生にチェックしてもらうわけです。練習をしないで教室に通っても上達は望めません。アトピー性皮膚炎の治療も同じです。炎症は残っていないか、副作用は出ていないか、自宅で正しく外用できているかどうかチェックを受けるために皮膚科を受診するのです。悪い状態を診てもらうために受診するのではありません。
状態が悪くなれば医療機関にかかるのは普通のことですが、アトピー性皮膚炎ではそれが当てはまりません。アトピー性皮膚炎は生命予後が良好な疾患ですから、目標到達点が人によって多少異なる可能性があります。そうであっても、アトピー性皮膚炎は完全寛解を目指すべきだと考えています。なぜなら、炎症を完全に抑えてしまえば、再燃までの期間が長く、かつ再燃しても症状は軽度で済むうえ、治療を再開すればすぐに炎症を抑えることができるからです。ステロイドの累積使用量も最小限に抑えることができます。
飛行機で言えば高度11000メートルの燃費の良い安定飛行に例えられます。この安定飛行が継続できれば、重力や空気抵抗は次第に小さくなり、最後には自らの慣性で飛び続けることができるようになります。当院では寛解状態にするだけでなく、それを維持するための外用スキルの習得を目指します。スキルを身につけてしまえば、自分自身でアトピー性皮膚炎をコントロールできるようになります。
アトピー性皮膚炎の治療は患者さんに正しい教育・指導をすることから始まります。教育は強制から始まるものと考えます。強制というと驚かれるかもしれませんが、たとえば子供に九九を教えたり、ひらがなを覚えさせることは本人のやる気・意思など関係なく強制的に叩き込むべきものです。この点に関してはアトピー性皮膚炎の患者さんも同じです。
最初は私達が背中を後押しすることから始まり、定期受診(強制)を通じて、また実際に治癒過程を体験しながら説明を受けることで理解は格段に深まります。それは座学では得られないものです。標準治療を徹底させる過程で、問題点の抽出、その傾向と対策、動機づけを行うことが定期受診の主な目的です。これを不定期な受診で実現することは不可能です。
特に自己判断で定期通院を止めてしまう人は再燃を繰り返す傾向が強く、長期的に見れば悪循環から抜け出すことができません。また皮膚症状は日々変化しますので状況に応じた指導も必要になります。良い状態であっても定期受診をすすめる理由がここにあります。重症例では時間がかかることもありますが、寛解維持を継続することで最終的には定期受診を必要としなくなる状態になっていきます。
保湿剤はアトピー性皮膚炎の治療薬ではない
タイトル通りです。誤って認識されていることが多いと思われます。日本の診療ガイドライン・欧州ガイドラインともに保湿剤は「皮膚炎そのものに対する効果は乏しい」と記載されています(文献1)。例えば、かぶれや虫刺され等で皮膚炎が引き起こされますが、そこに保湿剤を塗っても効果は期待できません。なぜなら、保湿剤には炎症を抑える作用は全くないからです。保湿剤とは皮膚に水分を与える、または水分のロスをおさえるスキンケア用品であって、皮膚炎の治療薬ではありません。皮膚炎が治まっていない状態で保湿剤だけを外用するのは無意味です。
たとえば肺炎になると発熱しますが、発熱は肺炎の原因ではなく、また解熱剤は「熱を下げるだけ」であって肺炎の治療薬ではありません。保湿剤は「肺炎に対する解熱剤」と同じ位置づけと考えるとわかりやすいと思います。保湿剤はアトピー性皮膚炎にみられる乾燥肌には有効であっても、皮膚炎そのものに対しては無効であり、治療薬ではありません。
2014年、乳幼児に対する早期の保湿剤の使用がアトピー性皮膚炎の発症を予防するという研究論文が話題となりました(文献2)。それ以来、乳幼児~小児に対して保湿剤の使用が推奨されてきました。ところが2020年「予防効果はない」という研究論文が発表されました(文献3)。そのため乳幼児~小児に対して保湿剤をどのように使用すべきか混乱状態にあり、専門家の間でも意見がわかれるところだと思われます。おそらく、乾燥肌はアトピー性皮膚炎の直接の原因ではなく、あくまでも随伴症状であって、保湿剤がアトピー性皮膚炎を治癒させる/予防効果があるわけではないと考えられます。保湿剤の効果を過信しないことです。
そもそも保湿剤を一生懸命外用するくらいなら、ステロイド外用薬で湿疹を確実に治し、皮疹ゼロの状態を保つことに専念したほうがはるかに有益です。なぜなら湿疹があることがアトピー性皮膚炎の最大の増悪因子であり、かつ湿疹の重症度が小児の喘息・鼻炎・食物アレルギーと強い関連性があることが様々なコホート研究であきらかとなっているからです。湿疹を治せば皮膚のバリア機能は回復し、乾燥肌も改善されます。しかし、保湿剤で湿疹を治すことはできません。小児に対して保湿剤外用による湿疹・食物アレルギーへの予防効果はないと2021年のコクランレビューで結論づけられています(文献4)。汗や皮膚表面の汚れを洗い流して皮膚を清潔に保つことは重要ですが、保湿剤を熱心に外用するのは今まで考えられてきたような有益性はない、というのが現在の新しい考え方です。
Key Points
①保湿剤はアトピー性皮膚炎の治療薬ではない
②保湿剤塗布よりも、ステロイド外用薬で湿疹を完治させる方が重要
(文献1)Wollenberg A et al. Consensus-based European guidelines for treatment of atopic eczema (atopic dermatitis) in adults and children: part I. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2018;32:657-682.
(文献2)Horimukai K et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014;134:824-830.e6.
(文献3)Chalmers JR et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet. 2020;395:962-972.
(文献4)Kelleher MM et al. Skin care interventions in infants for preventing eczema and food allergy. Cochrane Database Syst Rev. 2021;2:CD013534.
薬を多めに出さない理由
以下、特にアトピー性皮膚炎治療であてはまることです。「薬を多めに出してください」診察室でよく言われることです。では薬を多めに出したところで、しっかり外用して良くなるのかと言えば、そうでないことの方が多いようです。様々な理由が考えられますが、1つは外用治療における「習慣化の難しさ」にあると思います。よほど強烈な動機がない限り、人はこれまでの習慣を変える、または新しい習慣を身につけることは容易ではありません。次第に意欲が低下して外用しなくなる、つまり習慣化の壁にぶち当たるのが普通だと思います。また、皮膚の状態は変化しますので、それに応じて処方薬や指導内容を変える必要も出てきます。受診期間が空くとモチベーションが低下したり、不適切な治療を知らず知らずのうちに継続してしまうことにもなりかねません。定期通院はこのようなことを未然に防止する効果があります。
アトピー性皮膚炎の治療は「習慣化する」だけでなく「自己管理をする」という考え方が重要です。たとえば乳幼児の育児中だと赤ちゃんのオムツは「必需品」です。完全に残がなくなってから、あわててドラッグストアに買いに行く人がいるでしょうか?アトピー性皮膚炎ではステロイド外用薬が「必需品」です。薬が切れて増悪してからあわてて受診するのでは、それまで積み上げてきた成果が台無しになります。薬の残を正確に把握して少なくなった時点で受診する、または残があっても指定された時期に定期受診することが大切です。それができている患者さんは状態が良いことが多いです。一般に、内服薬よりも外用薬の管理の方が難しいことがわかっています。また薬の処方量や種類が多ければ多いほど、受診期間が長くなるほど管理が難しくなります。アトピーの状態が悪い患者さんに「薬を多めに処方」すると、結局は良くならないことを今まで何度も経験しています。
もともと保険診療にはさまざまなルールがあり、処方量には上限があるものです。また、ご家族が代理で薬を取りに来るのは法的に禁止されていますし(医師法第20条)、適正な医療を行うという観点からも好ましくありません。
Key Points
①アトピー性皮膚炎の治療は「習慣化」「管理」という考え方が重要
②薬切れになる前に(または指定された時期に)定期受診することが重要
アトピー性皮膚炎治療における慣性の法則
アトピー性皮膚炎に限ったことではありませんが、良い医療を受けるにはそれなりの準備が必要です。私がアトピー性皮膚炎の患者さんによく指導していることがあります。「良い状態を見せてください」これは最重要事項と考えてください。良い状態でもわざわざ受診していただくのには理由があります。
例えば虫歯が痛いのに我慢し続け、痛みに耐えかねてから歯科を受診する人がいます。そのような場合、すでに虫歯がかなり進行しているため治療が大掛かりになることが多く、治療の日数も費用もかかります。虫歯になってから受診するのではなく、虫歯になっていないかどうか、正しく歯磨きができているかどうか定期的にチェックしてもらうのが理想です。つまり定期健診が重要であるということです。
アトピー性皮膚炎の患者さんの中には「指定された時期」に受診しない人がいます。薬はまだ余ってるし、かゆみもないから別に受診などしなくても良いだろうという「自己判断」があるのだと思います。こうした「自己判断」は再燃を繰り返し、難治化・長期化させる要因の1つです。指定された時期に受診せず、薬を切らして状態が悪くなってから受診するのは「悪い皮膚科のかかり方」です。正しいかかり方は、薬が切れる前に受診すること、良い状態かどうかチェックを受けるために定期受診することです。さらに言えば、定期受診というよりも「定期健診」と位置付けるのが理想です。良い状態を保ち、良い状態を診せることです。悪い状態を診せるのは初診時だけです。
詳しい説明は割愛しますが、寛解状態の維持期間が長くなるほど、その後も寛解状態を維持するのは容易になります。重症患者さんが寛解状態を一定期間維持することができた場合、外用要らずになることは稀ではなく、そのような症例を経験すると、物理学で有名な「慣性の法則」が成立しているように感じられることがあります。面倒だと思っても定期受診することで最終的には治療期間が短縮され、治療費も安上がりになります。定期通院によって「慣性の法則」を成り立たせることがアトピー性皮膚炎を治す一番の近道だと考えます。
Key Points
①アトピー性皮膚炎の定期受診は「定期健診」と考える
②良い状態で定期的に受診し、それを維持することが重要
継続することはなぜこうも難しい?
治療の取り組みを再考してみましょう。例えばダイエットや筋トレを頑張ろうと一念発起したとします。最初のうちは週1~2回ジム通いをしていても、次第に足が遠のき、気がつけば月会費を払うだけになっていた…よくある話です。海外の報告でフィットネスセンター会員5240人を追跡調査したところ、新規会員の63%が3カ月以内に脱落し、1年以上継続できたのは4%未満だったと報告されています(文献1)。ジム通いは1人でやるよりも仲間を作ったり、トレーナーの指導を受けることでモチベーションを維持するのが良いと思います。超一流のスポーツ選手であってもコーチの指導を受けているものです。普段は家が散らかっているのに、お客さんが訪問する直前になると大慌てで片付けた経験が誰しもあるでしょう。その後、家は再び散らかり始めるものですが、定期的にお客さんが訪問するとなると、それなりに家は片付いた状態がキープできるものです。
以上の話をアトピー性皮膚炎治療に当てはめてみましょう。まずは月1回程度の定期通院で「良い状態を見せること」を目標にしてください。それが動機づけとなり、良い状態(家がそれなりに片付いている状態)をキープできるようになります。また、状況に応じた指導を受けることで方向性を誤るリスクを回避できます(例:保湿剤を使うべきでない状態なのに保湿剤を使い続けて悪化するetc)。
アトピーの治療期間が長期におよぶとモチベーションを維持するのが難しく、通院も含め治療そのものが大変な負担になります。そのため「なかなか来れないので薬を多めにください」という人がいます。あえて指摘しませんが、定期通院が面倒でそう言っている場合はすぐに勘でわかります。結局は再燃を繰り返し、悪循環から抜け出せなくなります。薬を多めにもらってそれだけで良くなる人などいないからです。これまでの経過や臨床所見から「状態が安定している」と判断できれば、申し出がなくとも多めに処方するようにしています。是非それを目指しましょう。ただし、重症度が高い場合や、熱心に治療に取り組んでも状態がおもわしくなければデュピルマブ(デュピクセント®)や光線療法などの全身療法が推奨されます。
Key Points
①アトピーの治療は定期通院で「良い状態を見せること」が最も重要
②長期間モチベーションを維持したり、習慣化することは非常に難しい
(文献1)Sperandei S et al. Adherence to physical activity in an unsupervised setting: Explanatory variables for high attrition rates among fitness center members. J Sci Med Sport. 2016;19:916-920.
アトピーが難治化する要因
難治化の要因は様々です。今回は治療法についての問題点を挙げます。アトピーの治療の基本はステロイド外用薬の適正使用です。ところが「ステロイド外用薬を保湿剤等で混合希釈しても数倍までなら効果は減弱しない」という誤った認識が根強くあるようです。金沢大学名誉教授竹原和彦氏や帝京大学名誉教授渡辺晋一氏が指摘しているように、ステロイド外用薬を保湿剤と混合すると治療効果は著しく低下します。実際に混合薬を使っていることが原因で悪い状態が続いている患者さんが少なくありません。炎症を抑えることのできない弱いステロイドを使っていることになるからです。混合すると治療効果が落ちる理由は至極簡単です。病変部に塗布されるステロイドの絶対量が半分になるからです。結果として吸収されるステロイドの量も減少するため、治療効果が落ちるのです。
ステロイド外用薬の濃度は適当に決められているわけではありません。ステロイド外用薬は臨床試験の段階で最も適した濃度、すなわち至適濃度を決定するために健常人の皮膚を対象とした血管収縮試験が行われます。例えばアンテベート軟膏®の場合、論文の最後の文章に「以上の結果から、BBP外用剤の至適濃度は 0.05%と結論づけられた。」と記載されています(文献1)。それを「希釈しても問題ない」などと主張するのはナンセンスです。何のための臨床試験だったのかわからなくなるからです。
日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインや教科書等で「安易な混合は行うべきでない」と注意喚起されています。ステロイド外用薬と保湿剤との混合は「広義の脱ステロイド療法」であり、標準治療から外れているものです。当院の基本方針としてステロイド外用薬は混ぜないで単剤で使用すること(標準治療)が重要であると考えています。
Key Points
①ステロイド外用薬を保湿剤と混合すると治療効果が落ち、難治化の原因になりうる
② 各ステロイド外用薬は臨床試験に基づいて「至適濃度」が決められており、混合希釈などしないで「至適濃度」のままで使用すべきものである
(文献1)久木田淳, 他. Betamethasone butyrate propionate (TO-186) 外用剤の至適濃度設定に関する臨床的検討. 臨床医薬1990;6:1393.
紫外線療法の有用性
近年、アトピー性皮膚炎や乾癬の治療は飛躍的に進歩しました。しかし、治療の基本は今も昔も外用療法です。通常の外用では効果不十分、かといって高額な治療を行うのも難しい…そのような壁があるのも事実です。
そこでおススメなのが紫外線治療です。太陽光に含まれる紫外線のうち、治療効果のある特定の狭い範囲の紫外線だけを全身に照射します(narrow band UVB療法)。炎症細胞の働きを抑えることで重症アトピー性皮膚炎や乾癬などに対して優れた効果を発揮します。有害な波長を取り除いた紫外線なので安全性も高い治療です。ただし治療ができる施設は限られています。当院ではダブリン3シリーズ NeoLux(キャンデラ社製)を導入しております(写真参照)。電話ボックスに入って全身に紫外線を当てるようなイメージです。機械の内側にはランプが計48本搭載されており、照射時間は30秒~2分程度と短時間で終了します。状態にもよりますが、まずは週1~2回程度から開始し、症状が落ち着いてきたら徐々に期間を空けて治療を継続します。費用は3割負担で1回1020円なので高価な薬剤に比べれば安価です。
紫外線は通常の外用療法の次のステップになりうる治療法です。これで改善できれば、外用量が減って外用の手間と薬剤費がセーブできるので選択肢として悪くはありません。学会等では高価な薬ばかりが華やかですが、従来の治療を組合わせることで十分改善できることも多いです。当院では外用療法の工夫、紫外線療法、治験への参加など、なるべく費用がかからない治療法を提案することも可能です。まずは漫然とした治療からの脱却が必要です。
Key Points
①紫外線療法は中等度~重度のアトピー性皮膚炎・乾癬治療の有力な選択肢である
②紫外線療法は費用対効果に優れた治療法である
ステロイド外用薬を止める方法
アトピー治療の基本はステロイド外用薬の適正使用です。安全性が高く、年単位で使用していても通常は大きな問題となることはありません。ただし20年以上ステロイド外用薬を使用している中高年の患者さんの中には皮膚の萎縮が進んでいるケースもみられ、治療方針を見直す必要があります。
近年、ステロイドを含まない外用薬の開発が世界中で進められ、2023年現在ではデルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏)やモイゼルト軟膏などが使用されています。副作用が少ないため、アトピー治療の新たな選択肢として期待されています。欠点としては炎症を抑える効果がマイルドであるということです。そのため中等度以上のアトピー性皮膚炎を十分にコントロールすることができません。そこで光線療法と併用することが推奨されます。週1回程度の通院の負担が生じますが、強力なステロイド外用薬に匹敵するほどの効果も期待できます。安全性が確立された治療法であり、費用は3割負担で1回1000円程度です。その他、ステロイド外用薬を使わない治療法としてデュピクセントや経口JAK阻害薬があります。これらは治療効果が高いですが、費用の負担が大きいことや一定の基準を満たす必要があるなど敷居が高いのが難点です。
当院では全身の光線療法としてダブリン3シリーズ NeoLux(キャンデラ社製)、局所の光線療法としてエキシプレックス308(アブソルート社製)を導入しています。ステロイド外用薬なしではアトピー性皮膚炎の治療は不可能と考えられてきましたが、時代は少しずつ変わりつつあると言ってよいでしょう。
Key Points
①ステロイド外用薬に代わる治療法も進化してきている
②ステロイドを含まない外用薬は効果がやや弱いが、光線治療と併用することで高い治療効果が期待できる
デュピクセントの有用性①
アトピー性皮膚炎は寛解と増悪を繰り返す疾患です。アトピー性皮膚炎ではステロイド外用薬が「標準治療」です。年齢が若いほど外用治療が成功しやすく、多くは「標準治療」で寛解状態にすることができます。FitzpatrickやRookといった世界的な皮膚科教科書にも、ステロイド外用薬が治療の第一選択であると記載されています。しかし、それだけでは限界があるのも事実です。私は「35歳以上の重症アトピー性皮膚炎」の治療は非常に難しいものだと感じています。遺伝的にアトピー素因が強い場合や、長年にわたって不適切な治療を受けてきたことなどが理由としてあげられます。仕事の都合等で、どうしても定期通院ができない場合もあります。治療熱心であるにもかかわらず外用治療に非常に反応しづらいパターンも経験します。
医学は日々進歩しており、アトピー性皮膚炎の治療もここ数年で大きく変わりました。難治例に対する切り札といえるのがデュピクセント(フランス サノフィ社製)という注射製剤です。IL-4(インターロイキン4)とIL-13(インターロイキン13)を抑制するものでアトピー性皮膚炎の病勢をピンポイントに抑えることができます。診療ガイドラインでもエビデンスレベルAの治療法です。それまで重症アトピー性皮膚炎がこれほどまでに寛解状態になるとは多くの臨床医は想像がつかなかったはずです。デュピクセントは一定の使用条件・基準があること、外用療法を組み合わせないと十分な効果が得られないので注意が必要です。成人の重症アトピー性皮膚炎に対しては早期のデュピクセント導入が望ましいと考えられます。内服療法や外用療法と異なり、全身療法の中で最もアドヒアランスの影響を受けにくいことが最大の利点だからです。デュピクセントと外用療法を組み合わせることで難治例であってもかなりの程度まで改善が期待できます。
デュピクセントは3割負担でも月額で約4万円弱の治療費がかかることが欠点ですが、さまざまな制度を利用することで自己負担額を少なくすることができます。また、状態が安定すれば休薬ないし中止することも十分可能ですし、それを目標にすべきと考えています。短期的には医療費負担は大きくなりますが、結果的には治療期間を短縮させ、医療費も安上がりになります。皮膚科に何年あるいは何十年通院しても変わらなかったのに改善の兆しが見られた、ということが治療のモチベーションにつながると考えています。
Key Points
①重症アトピー性皮膚炎の治療はここ数年で劇的に変わった
②重症の成人アトピー性皮膚炎では早期のデュピクセント導入が望ましい
デュピクセントの有用性②
アトピー性皮膚炎の治療薬となる生物学的製剤はデュピルマブ(デュピクセント®)、トラロキヌマブ(アドトラーザ®)、ネモリズマブ(ミチーガ®)の3種類あります。デュピクセントはアトピー性皮膚炎の病態に深く関与するインターロイキン4(IL-4)およびインターロイキン13(IL-13)の働きをともに抑える製剤です。治療薬として最も理にかなった製剤と言えます。アドトラーザはIL-13のみを抑える製剤で、IL-4を抑えることはできないため、デュピクセントの方に軍配があがると考えられます。ミチーガはかゆみを引き起こすサイトカインであるインターロイキン31(IL-31)の働きを抑えるものです。「皮膚のかゆみ」を引き起こす疾患全般に効果を発揮する可能性がありますが、言い換えるとアトピー性皮膚炎に特化した製剤というわけではありません。
生物学的製剤以外ではJAK阻害薬と呼ばれるウパダシチニブ(リンヴォック®)、アブロシチニブ(サイバインコ®)、バリシチニブ(オルミエント®)の有効性が高いことが報告されています。JAK-STAT系と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路を抑えるもので、JAKは炎症応答、造血、感染/腫瘍免疫など幅広い分野に関係しています。免疫を幅広く抑制するため、関節リウマチや膠原病、円形脱毛症などの自己免疫疾患にも有効です。JAK阻害薬はデュピクセントと同等かそれ以上の効果を発揮しますが、高用量になれば上気道感染、鼻咽頭炎、頭痛などの副作用が生じやすくなります。また内服治療ではアドヒアランスの問題が生じるため継続率が次第に低下し、最終的にコントロールがつかなくなる可能性が懸念されます。
デュピクセントは2週間に1回の注射製剤で、治療効果の高さに加え、継続率や利便性、安全性の高さが光ります。総合的に判断するとアトピー性皮膚炎の全身療法としてデュピクセントが最も優れており、当院では重症アトピー性皮膚炎の第一選択としています。
治療効果 | 安全性 | 継続率・利便性 | 病態に合致 | |
---|---|---|---|---|
デュピクセント | ◯~◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
ミチーガ | ◯ | ◎ | ◎ | ◯ |
アドトラーザ | ◯ | ◎ | ◯ | ◯ |
リンヴォック | ◎ | ◯ | △ | △~◯ |
サイバインコ | ◯~◎ | ◯ | △ | △~◯ |
オルミエント | ◯ | ◯~◎ | △ | △~◯ |
Key Points
①重症アトピー性皮膚炎の治療の第一選択はデュピクセントである
② JAK阻害薬の有効性も高いが安全性や継続率、利便性に課題がある
アトピー性皮膚炎の治験
2018年~2022年までのわずか5年間でアトピー性皮膚炎の新薬が国内で8種類も承認され、今後も新薬が出てくる見通しです。世界中で治験が数多く行われており、今回は治験の参加について考えてみます。アトピー性皮膚炎の治療で大切なことは定期通院と正しい外用治療の継続です。毎日の積み重ねが重要になるのですが、これがなかなか難しいわけです。ところが治験に参加する場合、仕事が忙しいから…面倒だから…などと言い訳ができません。決められたスケジュールで通院し、決められた治療を継続することが求められます。つまりアトピー性皮膚炎の治療で大切なことが「強制的に実行」されるわけです。治験は患者さんの利益が最優先で、希望があればいつでも中止することはできるのですが、この「強制力」が大変有効であると考えられます。また、治験責任医師は担当患者さんの経過を詳細に把握しなければならず、結果として丁寧に診察することになるという利点もあります。ただし、プラセボ群に振り分けられると治療効果がほとんど得られないこともあります。
アトピー性皮膚炎の臨床試験で有名なCHRONOS試験ではプラセボ群でもかなりの改善効果が認められています(文献1)。皮疹改善度が90%を超える群が1割を超えており、いわゆるプラセボ効果だけでは説明がつきません。しかもこの試験では重症度が高い患者がエントリーされてます。ではどう説明すればいいでしょうか?プラセボ群も「強制的に通院」することで外用をしっかり行ったことが主な理由と考えられます。こまめな定期通院や継続治療の重要性を示すものだと思います(注:CHRONOS試験ではプラセボ群はステロイド外用+偽薬投与、実薬群はステロイド外用+デュピクセント投与)。
治験は第1相、第2相、第3相臨床試験にわけられます。医療機関で行う治験の多くは第3相臨床試験です。つまり、第1相、第2相臨床試験で有効性や安全性がある程度確立された薬剤の最終確認という位置付けです。海外ではすでに認可されている薬剤も含まれます。第3相臨床試験は莫大なコストと時間がかかるため、製薬会社が総力をあげて取り組むプロジェクトです。副作用のチェックも慎重に行われますが、アトピー性皮膚炎の治療薬には重篤な副作用のあるものはほとんどありません。生命予後が良好な皮膚疾患に対してわざわざ副作用の強い薬剤を使うメリットはないからです。治験というと「実験台」というマイナスなイメージがあるかもしれませんが、治験に参加する一定のメリットはあると考えられます。
Key Points
①アトピー性皮膚炎の治験では定期通院および継続治療が「強制的に実行」される
②アトピー性皮膚炎の治験には参加する一定のメリットはある
(文献1)Blauvelt A et al. Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2017;389:2287-2303.